葬祭の女神、死者の守護神ともいわれる【ネフティス】。
大地の神ゲブと、天空の神ヌートの間に生まれた、オシリス・イシス・セトに続く4きょうだいの末妹である彼女のその逸話は、かなり破天荒です。
◇◆ 欲望に忠実なネフティス ◆◇
兄である、砂漠の神セトを夫としていたネフティス。
しかし彼女が恋焦がれていたのは、オシリスでした。
オシリスと関係を持とうと必死になり、酔わせたり、オシリスの妻イシスに変装したりと、ありとあらゆる手段を用いて迫ります。その結果ついに彼の子を身ごもるのです。その不義の子が、冥界の神アヌビス。
しかしそこでネフティスは、セトの怒りを買うことを恐れ、アヌビスを捨ててしまいます。
なんという女性でしょう。
古代エジプト神話最高の女神とされる、姉のイシスと真逆の存在と言えますね。
しかもそのアヌビスを拾って育てるのは、イシス。
そのまま養子となったアヌビスは、その後イシスを補佐する存在となるのです。
◇◆ 葬祭の女神ネフティス ◆◇
その一方で、オシリスがセトに殺されて、身体をバラバラにされてあちこちに飛ばされた時には、イシスと協力してその肉体を探し出し、復活に寄与します。そのことから、イシスと共に、死者を守る葬祭の女神とされています。
イシスと対の存在として描かれ、イシスが棺の足元のほうにあらわされるとき、ネフティスは頭のほうにあらわされます。
また、女神は頭の上に描かれるものによって区別がつくのですが、イシスは【王座】を冠しているのに対して、ネフティスの頭に描かれるのは、【城】。ネフティスの名前は、「城の女主人」を意味します。
陽の当たるきらびやかな存在であるイシスの対極にあるような、ネフティス。
その存在は、まるで光と影のようです。
人にも、ただ明るいだけの人はいませんよね。
彼女の、破天荒とも思える逸話に垣間見る多面性は、やはりどうにも無視出来ません。
人間の複雑さも、示しているような気がします。